ようこそ、お隣のお嬢さんvv
 




  *女体化キャラが出てきます。
   ネタとしては何番煎じかって傾向のお話ですが、
   苦手な人は今からでも遅くない、引き返してください。



西の方ではそろそろ暦通りに春近しという気候になりつつあるそうだが、
こちら関東地方手前のヨコハマはまだまだ行ったり来たり戻ったりで。
油断は禁物、当分はダウンジャケットが仕舞えなかろうという、
真冬の寒さがなかなか去ってはくれない日々が続いており。
人が羽目を外すのは、判断力が低下する真夏だけかと思ったら さにあらん。
手足や背中をちぢこめている身なのが
気候なんぞへ屈服したよで得も言われず不愉快になるものか、
強盗や放火といった性根の曲がった犯罪は極寒の中でも起きるようで。

 「それだけの体力があるのなら、バイトの一つもすればいいのにな。」
 「人手不足の昨今ですしねぇ。」

ここのところは慢性的に人材不足という市場なのだ、
それしかないよなブラックな仕事しか見つからぬということもなかろうにと。
谷崎さんと至極一般的なやり取りをしつつ、今日の依頼の現場へと向かう。
何でも軍警から協力要請があった、緊急事態への助っ人だそうで、

「ざっとした言い方で、コンビニへの籠城犯の身柄確保だ。」

国木田が状況をまとめたらしい書類を挟んだバインダーを手に、
街道沿いの全面ガラス張り店舗のお向かい、
ガソリンスタンドの接客フロア兼事務所という社屋から
現場を見やりつつの打ち合わせが始まって。
こちらも外への見通しがいいようにというガラス張りの空間だが、
チラシを置いたスタンドやら観葉植物の鉢やらがあるので
外からはそうそう素通しということもないが。
それを言ったら向こうも同様、
レジカウンター前に店員だろう制服姿の若い男性が
手足をガムテで拘束されて転がっているのは何とか見えるが、
見通しが良い筈のガラス張りの壁沿いには
雑誌のスタンドや何やがごっちゃり置かれているし、
商品棚の死角に入られてはお手上げで。

「それでも太宰さんが防犯カメラへのネットからの接触に成功したらしくて。」
「凄いですね。」

もともと無線LAN接続タイプだったらしいもの、
なのに暗証番号での鍵がかかってない、所謂 初期状態のままだったらしくてと、
初歩的な説明をされて、とはいえ敦には早くもちんぷんかんぷんだったそれにより、
お店のバックヤードに居なくとも店内が見える状況にはなったものの、
相手もそういったものへの警戒は慣れているのか、
防犯カメラの映像にも他の人物の姿は映ってはいない。
それでもそこは武装探偵社の辣腕社員、お店のデータシステムへアクセスし、
押し込みが発生した辺りまで遡って犯人の姿を特定。
それを警察のベータベースで照会したところ、

「ここ数カ月ほど、近隣の複数の店々へ押し入っている常套犯と判明してな。」

イマドキの解析術は凄まじく進歩しており、
人自体を鍵として認証する技術の進歩のお陰様、
変装も特殊メイクもあっさりはぎ取ってしまえるし、
何となれば歩くときの姿勢や癖からでも個人特定できるという。
そういったものを投入して解析した結果、
数件分の犯罪案件への同一犯だということは判明していて、
あとは取っ捕まえて何処の何方かを確定させるまでとなってた容疑者さんであるらしく。

「結構な前歴アリだけど、何で捕まえられなかったんでしょうか。」

年末年始だったので警察も忙しかったとか?と、敦が率直なところをついこぼす。
警察の人を腐したいのでは勿論なくて、
防犯カメラの死角へ逃げてるところはまま買ってやるが、
その前の強引に刃物をちらつかせて押し入ってる手法とかあまりに無様が過ぎており。
それほど巧みな手合いには見えないという方向で、率直な見解をつい口にしたところ、

「そこなのだよ、敦くん。」

不審に思うのも当然と、
うんうんと深々頷きながら太宰が同意し、

「だというに、
 こういった籠城犯にも手慣れた所轄警察の皆様が取り逃がしてきたのはね。」
「相手が“異能者”である可能性があるからだ。」

打ち合わせがあったよに、それは絶妙な呼吸で文言を続けたお声が割り込んで来て、

「何だい、人の邪魔するのが相変わらずお得意なようだね。」
「差し迫ってる状況だってのに、余計な間を取りすぎる手前が悪い。」

あああ、なんか耳が痛いわと、話の進めようが冗長な書き手が悶絶しているのも踏みにじり、
臨時の作戦本部であるガソリンスタンド社屋内モデルルームへ踏み込んで来たのは。
特別仕様の黒服に、黒外套をマントのように肩へと引っ掛け、
頭にはトレードマークの黒帽子という、
毎度おなじみの風体をしたマフィアの上級幹部様。

「え?」

あれ?これって軍警からの依頼案件ですよね。なのに何でまふぃあの人が加わって…と。
道理の順番がおかしいことを把握しつつも、
思わぬところで大好きなお顔を見れたとあって、
嬉しいのを隠すのが大変だと視線があっちこっちへ泳いでしまいそうな虎の子くんへ、
にやりというカッコいい笑い方での一瞥を向けてから、

「あの野郎、図々しくもウチの倉庫からもいろいろとくすねてやがってな。」

警戒厳重なことでは一流商社の倉庫以上かもしれない
マフィアの備蓄用倉庫からも資材という名の武装関連のあれこれをくすねていたらしいとあって、

「異能者だからこその逃亡術を使われちゃあ
 普通一般の警察関係者には阻止も難しいからと、
「そちらさんの頭目が首を突っ込んで来たのだったね。」

先程 語尾を取られた仕返しか、
中也の説明の終盤部分へかぶさるよう、
やや食い気味、且つ悪意大有りな言いようで太宰が言い返す。

「大方、盗まれたってものが無届けの銃刀類だったのもみ消したいのだろ?」
「違げーよ、手前らでは頼りなかろうから手助けに来てやったんだ。」

太宰が元はマフィアだったことも知れているし、
時々は共闘という形で難敵へ合同で当たることも増えており。
なので、裏社会の人間が顔を出すこと、さすがに歓迎するのは順番がおかしいがそれでも顔馴染みのご登場だと、
やや眉をしかめはしたが さほど驚きはしないままの国木田が、
いつもの相性からというしょむない恰好で揉め始めた彼らをスルーしつつ話を続ける。

「先に言われてしまったが、どうやらこの常習窃盗犯は“異能者”であるらしくてな。」

被害該当品目にマフィアのタグ付きという物騒なものが混ざっていることをどうするかは、
超高次元での交渉なり何なりが設けられるそうで、それはウチとは関係ない話なので置くとして。

 “…置くのか。”

この、敦でも判るほどに融通が利かず、
清濁併せ呑むのが苦手なお人がそう言うとは、
かなりの気構えで平常心を保っているのだろうなというのを案じつつ、
話の先を待っておれば、

「ウチの管内の所轄も無能ではない、
 むしろ途轍もない案件が多いのへの対処が続いているのだ、
 他所より柔軟でおいでなのに
 それでも無理だとウチへの協力要請を申告して来られたのは、」

傍らにあったホワイトボードへマグネットで貼られた写真や地図。
それらには…なるほど、とんでもないものが写っているものだから、
敦も谷崎も多大なる驚きから目を丸くし、
賢治くんや鏡花ちゃんは逆に何処か嬉しそうな顔で眼を見張る。

「これって…。」
「どう見てもシマウマですよね。」
「そうだ。」
「こっちはキリンですねぇ。動物園でこないだ初めて観て来ましたよ。」
「しとらすの国の、げーとらびっと。」
「…さすが鏡花ちゃん、知ってたんだ。」

逃げ惑う警官を追い回すシマウマの群れや、
倉庫街の裏手の細道にどうやって搬入されたか、巨躯を窮屈そうに押し込められているキリン、
そうかと思や、やはり大きな大きな縫い包みのウサギの人形などの姿が、
証拠資料だからだろ、モノクロ写真に写し取られて並んでおり。

「犯人確保と飛び出したと同時、これらが妨害するよに現れて、
 その混乱の隙を突いて相手はまんまと逃亡せしめているという。」
「わあ…。」

もしかして幻覚とか…。
それはない、こうやって映像が静止画も動画も残っているからには物理的に本物らしい。

「しかも、これもまた“異能”らしいとする証左だが。」

混乱のうちにも捕まえたシマウマ数頭やキリン、他にツキノワグマやテトラポッドなどなどは、

「数日たつと煙のように消えているとのことでな。」
「…っ。」

そんなややこしいものを確保したこと自体が極秘となっているのだから、
物好きがこっそり盗んでいったとするのは妙だし、
証拠隠滅と担当官が隠すにしたってそうそう簡単に運び出せるものじゃあない。
重機だ何だにどれほど手数料がかかるかを思えば、恥ずかしながらと公開された方がましだそうで。

「そうまで巨大な現物を生み出せる異能、でしょうか?」
「若しくは、空間移動が出来るとか。」
「そういう奴がいたねぇ。」

与謝野女史が呟きつつ想起したのは“天人五衰”のゴーゴリくんでしょうか。
ウチのお話は三社鼎立以降の原作にはあんまり触れないで進んでおりますが、
既往事実としてなら触れることもありかと。

「物体転送…ですか?」
「まあ、あんまり高度なそれじゃあなさそうだがね。」

元相棒との実のない言い合いは一応の鳬が付いたのか、
太宰がこちらの話へ割り込んで来て、

「自分を移動させるところまでの力はないようだからね。」
「あ…。」

良いんだよ思いが至らなくとも、善人の証拠だからねと、
想像力が足りなんだと赤くなった敦だったのへ。
いい子いいこと頭を撫でてやった太宰から彼を遠ざけるよに、

「…

やや強引に例の長いベルトの端を引っ張った素敵帽子さんだったのは余禄だが。(笑)

「あと、自在に思うがまま何かを持ち出すのも出来ねぇんだろうな。
 いちいち自身が現場へ出向いて物色しているし。」

マフィアの倉庫を荒らされたのは、
ネットでそういった物品がやり取りされているのを見でもして
大金になると踏んだからだろうが、

「非合法なやりようで奪う奴らは大概、
 こちらが公安へ届けられないだろうと勝手に安んじるのだが。」

そうはいかぬと自発的な制裁を下すため、マフィアの側でも網を張ってはいたようで。
ただ、今日のこの籠城事件の発覚とほぼ同時、
そちらの陣営で新たに発覚したのが、

「そやつが持ってったものの中に、
 財界の大物の筋の人物が関わってた書面が紛れ込んでたらしくてな。」

「…それって。」

大人の社会の持ちつ持たれつ、
汚い仕事を実際に手掛けてもらったとか、
それを借財とし、別なところで融通利かせてもらうとかいう、
法規的には問題大ありなことを隠す“都合”と“融通”が生んだもの、
時折そういう整合性がない奥の手的なブツが行き来するのが大人の世界というもので。

「ヤダなあそういうの。」
「でも適度にそういう矛盾もないと世の中が軋みまくるよ?」
「水清くして魚住まずとかいうし。」
「そうそう、潤滑油みたいなもんだ。」

飲めるよになっとかないと、国木田くんみたいに消化不良から胃炎を抱えることになるよ?
慣れすぎて太宰さんみたいになっちゃうのも考え物です。
あ、言うようになったねぇ、でも私の場合慣れてるんじゃなくて活用する要領の良さが身についたってだけで。

「俺のことは今はどうでもいいっ

魚、もとえ肴にされるのは御免ということだろう、
脱線していた顔ぶれをまとめてバインダーで小突いて話を戻す、
こたびの作戦参謀、国木田さんで。

「被害を増やさぬためは勿論、
 相手が異能者であるということを伏すためにも、
 とっととあやつを確保するに越したことはない。」

そこでの共闘であるらしく、

「所轄や軍警の皆様が防御用に十重二十重と陣幕を敷いてくれているその中で、
 今度こそ異能に振り回されぬよう、犯人を確保する。」

その中で問題の書面とやらの行方もはっきりさせねばならぬそうで。
それを見届けるべく、素敵な帽子の幹部様とそれから、

「何が現れても取り押さえられるよう、とはいえ、
 そっちの人虎の馬力だけでは無理な場合もあろうから。」

異能VS異能という段取りへ、
探偵社の怪力無双、月下獣の中島敦くんが前線へ繰り出されるのはいつもの運びだが、
それへの補佐役としてマフィア側から用意されたらしいのが、
こつりという堅い靴音からの登場もお馴染みの、

「芥川?」

良いのか指名手配犯、という声が今更上がらないほどには、
他の調査員たちへも馴染んできた顔合わせの共闘であるらしく、
とりあえず、可及的速やかな対処をと、街道を挟んだお向かいへ視線を投げる面々なのだった。



     to be continued. (18.02.24.〜)





NEXT


 *劇場版のいよいよのロードショーに気を取られていましたが、
  そういえば芥川くんのお誕生日なんだ、しかも二月は28日しかない。
  …このお話をそれを祝う格好にするのは相当無理があるので、あとで何か考えよう。
  好きが過ぎてどう扱って良いのか判らなくなる、
  某島田勘兵衛様に匹敵するキャラなのになぁ。(判りにくい例えを…)